Blender Foundation の Chairman である Ton Roosendaal 氏による基調演説の解説です。
Ton 氏によると去年一気にユーザーが増えたそうで、ILM や DreamWorks、Sony image works、Animal Logic といった大きなスタジオから、ゲーム産業、そしてアムステルダムでは自動車産業、ドイツでは製造業、さらにアメリカ、韓国、日本のデザイン企業や建築、映像関連と、様々な分野で使用されているとのこと。
しかし、導入を検討している企業が懸念事項として挙げられるのが Blender がソースコードに採用している「GPL」。その企業の法務部曰く、Blender を使用すると小さなミスで Blender コードが彼らの IP(知的財産)に混入し、オープンソースとして公開、そして最終的には Blender の財産(Property)の一つになってしまうのではないか! と。
Ton 氏曰く、通常は Blender Foundation の弁護士を引き合わせたりするらしいですが、このような誤解がいまだにあることに憤慨し、基調演説でオープンソースについて疑問について解説することにしたそうです。
筆者が窓の杜へ寄稿した記事では、一般ユーザー向けに簡単にまとめてしまいましたが、実際は企業がカスタマイズしたりパイプラインとして組み込む話なので、かなりの長文です。
黒い箱は自分の権利のメタファー。そこで作ったものは自分またはその会社のコピーライトとなります。
さらに拡張し、自分はある企業の従業員で、黒い箱を企業の「IP」とします。
そこで働くあなたは同様に作品をつくりますが、それは企業の IP となります。悲しいけどビジネスだから仕方ないですね。
そしてこの企業に新たに青緑の箱が加わります。
この箱は Maya や Photoshop などの他社の「IP」のメタファーです。
この中の「ツール」(ボールペンのメタファー)を使って作品を制作した場合、その作品のコピーライトは黒い箱に入ります。さらに他社に販売もできます。
しかし青緑の箱の物自体は他社の IP ですので、ごっちゃにならないよう取り扱いに注意しないといけません。
そしてそこにオレンジ色の GPL フリーウェアの箱が加わります。この中にはグリースペンシルやらのツールが入っており、そのツールを使っても、やはり作品のコピーライトは黒い箱に入り、他社に販売もできます。
この3つはすべて違う種類のコピーライトで、大きな違いがあります。
ここで Ton 氏はフリーランサーになったとします。彼は黒い箱の「企業で自分が作成した作品」を持ちだそうとしますが、ブザーが鳴って禁止されてしまいました。
もちろん、使用していた青緑の箱の「ツール」もダメです。
しかしオレンジの箱の「ツール」を持ち出すのは OK です。ここがフリーウェアの強みであり、他の箱との違いとしています。
少し飛んで、今度は青緑色の箱からツールを取り出し、黒い箱に入れるとブザー。これはもちろん、青緑色(他社)のツールを自分や自社の物にはできないということです。
同様に、オレンジの箱から「Blender のコード」を取り出し黒い箱(クローズドソース)に入れてもブザー。Blender Foundation やコミュニティはフリーであることを望んでおり、「GPL」で守られているからです。
つまり「Blender のコード」を他社のツールと同様の扱いをするということです。
しかしながら、Ton 氏は別の方法も提示しています。例えば、いい機能ができたので Blender に貢献しようとした場合、普通にプルリクすると当然そのコードは GPL または互換ライセンスになることを余儀なくされますが、似たようなコードを作り、オリジナルは自分の手元に置いておけばいいのです。
他にも、Blender に自社のコードを組み入れたカスタム Blender を作って使用することは何の問題もありませんが、外に持ち出す場合は、Blender コード部分と自社コード部分をちゃんと分離しないといけないことに注意してください。それさえ守れば、青緑の箱(商用IP)では得られない自由が得られると語ります。
ここで氏は実際の例として、「はるか遠くの有能なコーダー」さんからのメールを取り上げます。
私は Blender 用に素晴らしいコードを作成しており、プラグインとして私の条件下で売りたいと思っています。今書いたことは実際どうなんでしょうか? このコードは私の宝物であり、公正に苦労が報われてほしいのです!
これについても同様に「コードをちゃんと分離し、Blender がなくても動作するようにする」ことが必要と答えています。
次の質問は「超巨大ストリーミングスタジオの CTO」さんからの VPN についての相談です。
私たちは大きなスタジオで他の多数のスタジオとともに働いています。私たちのインフラとソフトウェアへのアクセスを VPN のようなリモートコネクションで提供しています。私たちはスタジオ内で改造版 Blender を使用し、パイプラインと統合したいと思っています。
弁護士はこれは Blender の配布に該当するため、できないと言います。
Ton 氏が過去の Siggragh にて聞いたところによると、大きなスタジオでは他の IP の混入やリークを防ぐため、インターネットとの接続を一切許していなかったそうです。しかし今は上記のようなリモートコネクションを使用し、サーバ上にて作業を行っているとのこと。
Ton 氏はこの用法に関し、
「GPL ではこの事例は配布とは見なしていないので問題なし」
と答えています。
最後は「Studio Former Max の パイプラインTD(テクニカルディレクター)」さんからのお願いです。
パイプライン TD として、自分たちのバージョンの Blender の作成と保守は難しいとわかりました。ユニフォームプラグイン API を追加し、Blender をもっと簡単に拡張できるようにしてください。
Ton 氏は多くの人にとって Blender が難しく、3D Studio Former Max 用プラグインなどになれば素晴らしいことなのだろう、と一応の理解はしめすものの、
「レディースアンドジェントルメン! これが人々がオープンソースと呼び、そして企業が見たい物です」(小さくなったオレンジの箱を手にしながら)
と皮肉で返し、直後に「これがフリーソフトウェアです」と元の大きさの箱を出してくるあたり、プラグイン化はする気は全くない模様。
Ton 氏はさらにこう続けます。
「その違いは、Blender Foudation と Blender コミュニティはこのボックスを何もかも完璧にし、彼が思い浮かぶものすべてを作成できるようにしたいと思っているということです。これはあなたと私、そして私たちの物である究極の自由でなのです」
なぜこれが究極の自由である理由は、前の方の Ton 氏がフリーランスになって箱を持ち出そうした部分にヒントがあります。つまり、氏は質問者のような人も自由にしたいのでプラグイン化のようなことはしたくない、ということなのです……と、私は解釈したのですが、正直ちょっと自信がありません。
18分06秒あたりから、2022年の活動の紹介が始まります。(https://youtu.be/0P-hQNzDSk8?t=1088)
まずは収入の内訳。コロナで企業の倒産や解雇があったにもかかわらず、あまり変動がなく、そのおかげで、開発者とアーティストを含む50名以上と契約できたと述べています。
2021年度に比べ、Epic Mega Grant と、Dev. Fund の corporate、Cashing in Crypto donations の割合が減っているのに対し、Dev. Fund の patron と individual の割合が増えているのがわかります。
今年、Blender のプロジェクトサイト(https://projects.blender.org)の管理が、開発が終了した Phabricator から、 Gitlab に似た機能を持つ Gitea に移行しました。
開発者側としては単なる開発の止まった旧管理ツールからの移行以上に、ポピュラーな管理システムである Git に完全移行したことの方が大きいのかもしれません。
前回の Blender Conference から3つの新バージョンがリリースされました。ちなみにこの後に上映されたデモリール動画はこちらにあります。
次はダウンロード数の推移。Ton 氏によると集計には広告ブロッカーを使用するユーザーやクッキーや広告を許可していないユーザーは入っていないそうで、実際には毎年2000から3000万ダウンロードはされているのではないかとのこと。
個人的には Steam や Windows Store が思ったりより少ないのが意外でした。自動でアップデートしてくれるので便利なんですけどね。
今年9月に公開されたPet Project: Wing Itや、Blender の裏側で働く人たちのドキュメンタリーシリーズ、BlenderHeadsの紹介。こちらはエピソード4が近日公開だそうです。
現在作業中のプロジェクトのリストです。
ちなみに EEVEE next や Grase Pencil 3 は現在、4.1 Alphaの実験的機能としてテストできます(プリファレンス→インターフェイス→開発者用オプション有効後に「実験的機能」タブから)。ただし4.1で大事なファイルに上書き保存などはしないでください。
Everything Nodes プロジェクトのシミュレーションノード、ノードによるリアルタイムコンテンツのコントロール、Animation 2025 プロジェクトや、Blender Studio のパイプラインツール、新作オープンムービー「Project Gold」、来年4月に行われる LA での Conference を軽く紹介しています。
上で収入の内訳を紹介していましたが、Ton 氏は Dev.Fund.Individual の項が増えていることを指摘し、Wikipedia のように、突然あちこちに寄付の依頼を表示するようなことはしたくないこと、そして企業からの支援への依存を減らし、コミュニティによる支援とバランスを取りたいことを理由として、12月に Donation キャンペーンをしたいそうです。
恐らく以前に行われた、USB メモリなどの販売し、到達ゴールを目指して募金額を上げていくタイプではないかと思われます。
前回に告知された、Blender LAB は、これからの10年間で、meta や AI などのように世界が大きく変わる中での創作活動について予測し、Blender の進むべき道を見出すための活動です。
Ton 氏曰く、現在は日々 Blender のバージョンアップを行うことで精いっぱいで、このまま5年続けていくと Blender はいずれ陳腐化するだけであることは予測されるため、完全に開発と切り離した少人数のメンバー(と資金)で Blender LAB を発足し、5年くらいで何か成果を得たいとしています。