昨年10月に行われました Blender ユーザーを対象としたアンケート、Blender Survey の結果が公開されています。非常に長い物であるため、このページではいくつか要約や省略で対処していますが、それでも長いです。

 なお、下記のリンク先の元記事の図表はインタラクティブな物であるのに対し、当ページの物は諸般の都合により、抜粋かつ単なるスクリーンショットからの切り抜きになっています。完全な図表やデータが欲しいのであれば、元記事をご覧ください。

元記事:Blender - Survey

1.0 Sources and Demographics

 まずは Source(アンケートを知った情報源)。blender.org が一番多いのは当然ですが、Instagram や X、Youtube もそこそこあります。

 **Age(年齢)は、26歳から35歳が25.43%で最も多く、19歳から25歳が25.19%でそれに続きます。この二つの年齢帯を中心にした正規分布になっています。

ユーザーの年齢の分布
ユーザーの年齢の分布

  Country(国) 。アメリカがダントツで、次にインド、ドイツ、フランス、イギリスと続きます。日本は19位ですね。

国別回答者数TOP20
国別の回答者数TOP20。完全版は元記事を参照

 ただ、日本人は英語が苦手な人が多く、さらにこのアンケートでは Blender ID への登録が必須だったため、実際はもっと多くの人が利用していると思われます。これは Language(使用言語)Continent(大陸)でも同じことがいえるかもしれません。

  The Freedom to Create(制作の自由) 。Blender の使命である「アーティストがフリーのコンテンツ制作ツールにアクセスする権利の支援」をどう感じているか。解説によると今はフリーミアムや F2P で、無料でアクセスできる物にあふれている所為か、古いユーザーほどこのことの重要性を感じているのではないか、とのこと。

  Signup date(サインアップ時期) Community badges(コミュニティバッジ) は恐らく多くの人にとってはあまり興味がないと思われるのでバッサリカットします。

2.0 Getting Started

 この項では最初に触った3Dソフトウェアや Blender バージョンについての結果が公開されています。

  First 3D software(最初の 3D ソフトウェア) は Blender が56.75%を占めています。

 さらにここで Other 3D software(他のソフトウェア) と答えた人の中では、3ds Max が27.98%、そして Maya が14.23%、Cinema4D が12.62%と続きます。Auto CAD が4.49%と割と上の方にあるのは意外。
 完全なリストはリンク先をご覧ください。

 そして First Blender version(最初の Blender バージョン) 。2.4xが一番多く、2.7x、2.8x と続きます。2.5x が少ないのは内部と UI が大幅刷新して落ち着くまで敬遠されていのかもしれません。1.8っていう人がいないのは寂しいですね(もともと選択肢になかっただけかもしれません)。

最初の Blender バージョン
最初の Blender バージョン

3.0 Access

  Download source(ダウンロード元) はダントツで Blender.org。まあそりゃそうですよね。

 一方 News(ニュース元) は、YouTube が一番多く、ついで blender.org やニュースサイト、X という結果になっています。

 Instagram はそこそこ多いものの、Facebook や TikTok が少ないのは、単なる用途の違いなのか、それともユーザー傾向なのか。

ニュースソース
ニュースソース

  Problem solving(問題の解決方法) 方法は、オンライン検索が最も多く、続いてマニュアル、コミュニティで訊く、そして AI の使用になっており、今後はマンツーマンで対応してくれる AI の利用が増えると予想されます。ただし間違った答えが返ってくることもあるので検索は必須です。

問題の解決方法
問題の解決方法

4.0 Using Blender

 ここからはみんなが気になる Blender の利用についてです。

  Frequency(頻度) は毎日という人が半数を占めます。ただ、この長いアンケートに答えるような人は熱心なユーザーであると予想できるため、当然なのかもしれません。

  Motivation(動機) は「フリー」という人が一番なのは当然ですが、「楽しみ」と「オープンソース」というのも同じくらい多いのに驚きました。これも恐らく上記と同じ理由なのでしょうか。

利用の動機
利用の動機

  Current version(現在のバージョン) は「4.x」が圧倒的で、 Long-term Support(長期サポート) では「LTS のみ」を使用している人は17.38%のみです。

  Experimental(実験的ビルド) の利用者は半数にも満たないものの、一方で40%近くの人が新機能に興味を持っているようです。

現在使用中のバージョン
現在使用中のバージョン

  Add-ons(利用中のアドオン) は、アンケートの回答者に現在利用中のアドオンを列挙してもらうスクリプトを実行してもらう、という形をとっているため、実際には回答者の半分以下の回答に留まっており、デフォルトアドオンの Cycles が一番上にあるという、少し有用性に疑問があるデータですが、気になる方は元記事の表で確認してみてください。

  What do you use Blender for(Blenderの用途) ではホビーが約20%です。

Blender の用途
Blender の用途

 そしてプロフェッショナルが Work(Blender で行っている仕事) は、映像・アニメーション、グラフィックデザイン、ゲーム開発の順になっています。

Blender で行っている仕事
Blender で行っている仕事

  Blender in a team(チームで使用しているか) を見ると個人利用者が大半を占めています。後の Version Control(バージョンコントロールツール) の利用者が少ないこともその表れだと思われます。まあ、大抵は番号の追加とバックアップ(.blend1~)でなんとかなりますし。

  Companion software(一緒に使用しているソフト) は、テクスチャや画像編集の「Photoshop」が一番多く、「DaVinch Resolve」「After Effects」といった動画編集ソフトが続きます。意外にも「Krita」や「GIMP」「Godot」のようなオープンソースのフリーウェアは思ったほど多くないようです。

一緒に使用しているソフト
一緒に使用しているソフト

5.0 Money

 この項ではタイトル通り、生臭い設問が続きます。:-)

  Making money with Blender(Blender でマネタイズしているか) では、半分以上が「No」と答えており、 How?(マネタイズ方法) では「アーティスト」が約半分、残りがアセット、コンテンツ作成、トレーニングと続きます。

 回答者全員に対し、自作品でマネタイズしている人は約1/6、アドオン開発者は1/20になるそうです。

マネタイズ方法
マネタイズ方法

  Money Spent(購入に消費した金額) によると、$0(無料)ではアセット・教育が、$100未満ではアドオンに最もお金を費やしています。図は縦軸がユーザー数、横軸が価格です。色が判りづらい方は元記事だとポップアップが出ますので、そちらをご覧ください(注:ここだけリンクがうまく動作していないので該当部分までスクロールしてください)。

購入金額
購入金額

  Contribution to Blender(Blender への貢献方法) では、難易度の低い寄付とバグ報告が同程度ですが、 Donating to Blender(Blender への寄付) については「余裕がない(I can't afford)」が多く、元々なのか昨今の世界的な経済事情の反映なのかはわかりません。まあ「No」と答えている人も「Yes」より多くて割とお察しなのが…。

貢献方法
貢献方法

  How?(寄付方法) では、やはり一度だけの寄付が多く、次いでと開発者ファンド。マーケットプレースによる間接的な寄付(Blender Market の売り上げから)もそこそこあるようです。また、 How much?(寄付可能な額) は最大$100が半数を占めています。

 後述の「電子決済」や「仮想通貨」が可能であればまた状況は変わるかもしれません。

寄付方法
寄付方法

ユーザーからのフィードバック

 Free form feedback(フィードバック)には、寄付に関するユーザーからのアイデアが多数掲載されています。

公式ショップの商品リクエスト

 まず、Blender Foundation の公式ショップの商品のリクエスト。Tシャツやフード、帽子、キーチェーン、UV マップ柄のソックス、Cube や Suzannne、オープンムービーキャラのぬいぐるみが挙がっています。Suzanne のぬいぐるみは欲しいですね。

 ただ、Blender Foundation 側の返答では、専用の人員が必要なことや過去の経験からあまり売り上げは見込めそうにないという理由から、消極的な感じです。以前に e-shop を運用していた NaN(※)時代の経験もあるのでしょう。
(※:Ton 氏がかつて経営していた会社。倒産後 Blender Foundation が設立され、募金キャンペーンにより Blender がオープンソース化)

デジタルアセット・公式マーケットプレイス

 また、デジタルアセットや Blender Foundation 公式のマーケットプレイスの要望もあります。

 こちらに関しての返答は、収入に関係なく高品質のアセットの供給は行いたいとし、現存の Extension platform に加え、アセット方面の拡充や Blender Cloud の復活も考慮しているとのこと。

トレーニング・サポート

 一方でチュートリアルやトレーニング、サポート業務については商用サービスの道を模索しているそうです。以前 Ton 氏がオープンソース化の際に「オープンソースではチュートリアルやサービスでマネタイズする」と言及していた覚えがありますので、この辺は今もぶれていないようです。

 他にも特別な寄付イベントやプロジェクトの販売、Blender のマーケティングアイデアや、ローカルペイメントシステム・仮想通貨による支払のなどの導入、貢献度による恩恵と差別化、市場調査、といったアイデア・要望が寄せられています。

全体的なテーマ

 長くなりましたので、最後の「Overarching Themes」だけを引用・翻訳します。


  • 透明性: ユーザーは、寄付がどのように使われ、どのような影響を与えているのかを明確に知りたいと考えています。
  • 価値の交換: フリーソフトウェアへの感謝の気持ちに加えて、多くのユーザーは何か見返り(商品、限定コンテンツ、または特定の希望の機能への貢献など)を受け取ることで、寄付や支出を促されます。
  • コミュニティの構築: 寄付活動をコミュニティイベントに結びつけたり、ユーザーの作品の展示、ユーザーが開発プロセスにより深く関わっていると感じられるようにすることで、寄付につながることが提案されています。
  • アクセシビリティ: さまざまな地域のユーザーにとって、支払い方法が容易になり、手頃な価格のオプションが提供されることが重要視されています。
  • 業界との連携: パイプラインのニーズに対応し、業界レベルの機能を実証することで、プロのユーザーやスタジオを引きつけ、より大きな資金調達の道を開くと考えられています。

Blender Development Feedback

 Blender の開発へのフィードバック。ここからが本番です。

  Satisfaction(満足度) は全体的に高いようです。上述したように、この長いアンケートに答えるのは熱心なユーザーが多いので鵜呑みにはできませんが。

  Areas to focus on(取り組んでほしい領域) は「アニメーション」が最多となりました。ここ最近のリリースでアニメーション方面の改善が進んでいますので、ユーザーのリクエストに合致しているといえます。

取り組んでほしい領域
取り組んでほしい領域

  Projects to focus on(取り組んでほしいプロジェクト) は、テクスチャリングが一番多く、次いでアニメーション&リギングとなっています。アドオンでだいぶ改善はできるとはいえ、初心者にはいきなりノードベースで設定させられるのはなかなかハードルが高いのかもしれません。

取り組んでほしいプロジェクト
取り組んでほしいプロジェクト

  Research to focus on(取り組んでほしい研究) はレンダリングが圧倒的ですが、コンピュータビジョン(画像解析・処理)や、機械学習&AI といった、最近の情勢を反映した物も多いです。

取り組んでほしい研究
取り組んでほしい研究

機能についてのフィードバック

 下記は Freeform feedback に「ポジティブ」「ニュートラル」「ネガティブ」でまとめられたユーザーの意見の翻訳です。


ポジティブ
  • 全体的な感謝: 多くのユーザーが、Blender に対して全体的な満足感、愛情、感謝の気持ちを表明しています。開発者への感謝の言葉も多く見られます。
  • 開発のペース: 開発のペースが速く、頻繁なアップデートがあることを評価するユーザーもいます。革新的でワクワクすると感じているようです。
  • 特定の機能: ジオメトリノード、ノードベースのワークフロー、Cycles、EEVEE(EEVEE Next以前)、そして Blender のオープンソース性など、特定の機能に対する賞賛の声が多く見られます。
  • コミュニティとリソース: Blender コミュニティ、チュートリアル、Blender Studio などのリソースの豊富さに対する肯定的なコメントがあります。
  • 時間の経過による改善: 長く Blender を使用しているユーザーは、年々 Blender が大きく改善され、商用ソフトウェアの代替として十分なものになっていると述べています。
  • 新しい方向性に対して満足していると表明するユーザーもいます。
ニュートラル
  • 開発のペースに対する複雑な感情: 開発のペースが速いと感じるユーザーもおり、変化についていくのが大変で、古いプロジェクトやワークフローとの互換性の問題を引き起こしていると感じています。
  • ドキュメント: もっといい、またはアクセスしやすいドキュメント、またはもっと詳しい例を求めるユーザーがいます。
  • 改善の提案: ユーザーは、必ずしも不満を表明するわけではない一方で、もっと具体的な機能やツール(例えば、CAD ツール、もっといいテクスチャペイント、改善された物理シミュレーションなど)に関する改善の提案をしています。
  • コミュニケーション: 開発計画やロードマップに関するより多くの透明性とコミュニケーションを求めるユーザーがいます。「Blender Today」のような番組が恋しいと感じているようです。
  • アドオンへの依存: Blender は外部アドオンに依存しすぎています。
ネガティブ
  • パフォーマンスの問題: 特に大きなシーン、複雑なモデル、シミュレーション (クロス、流体)、EEVEE Next のパフォーマンスについて不満があり、ユーザーは速度低下、クラッシュ、不安定さに対するフラストレーションについて述べています。
  • 機能の完全性: 新機能がポリッシングが不十分、または未完成なままリリースされることがあり、バグやワークフローの混乱を引き起こすという懸念があります。
  • API の変更/互換性のない変更: 新しいバージョンで開発者が API を変更し、ワークフローを壊しています。
  • 「Blender Today」の不在: ニュースやコミュニケーションにおいて「Blender Today」(動画番組)が恋しいという声があります。
  • 機能の欠如: 例えば「無限ドロップダウン」や他のソフトウェアにある機能の欠如など、多くのユーザーが新しい機能の必要性を語っています。
  • 使いやすさとユーザーエクスペリエンス: 一部のユーザーは、UI と UX に混乱したり、直感的でないと感じており、特に初心者や他のソフトウェアから移行してきたユーザーは、よりシンプルでユーザーフレンドリーなインターフェースを求めています。
  • 未実装/放棄された機能: 期待していた、または部分的に開発されていた機能が、その後放棄されたり、遅延していることについて不満が生じているという指摘があります。
  • 注力する分野: 一部のユーザーは、特定の分野(スカルプト、テクスチャペイント、物理、アニメーションツール、NPR レンダリング、CAD ツールなど)が他の分野(ジオメトリノードなど)に比べて放置されていると感じています。また、Blender があまりにも多くのことをしようとしており、コアの強化に集中していないのではないかという意見もあります。
  • 互換性とワークフローの問題: Blender のバージョン間の後方互換性の問題、互換性のなくなる変更、他のソフトウェアとのプロフェッショナルパイプラインにおける連携の困難さに対する不満があります。
  • コミュニティへの関与: 一部のユーザーは、開発者が必ずしもコミュニティからのフィードバックに耳を傾けたり、対応したりしていないと感じています。また、コミュニケーションチャンネルが改善されるべきだと考えています。
  • EEVEE Next: 一部のユーザーは、EEVEE Next のパフォーマンスに非常に不満があります。
  • 古い・ローエンドのハードウェアへの対応: 開発者に古いハードウェアのユーザーを考慮してほしいという要望があります。
  • 頻繁すぎるアップデート: 一部のベテランユーザーは、アップデートが頻繁すぎて、プロジェクトの互換性を維持するのが困難で、アップデートが必要になったときに「バチがあたった」と感じていると述べています。
まとめ
  • ポジティブ: 全体的に好意的、迅速な開発、活発なコミュニティ。
  • ニュートラル: 開発のペースに対する複雑な感情、軽微な改善の提案、ドキュメント改善の要望。
  • ネガティブ: パフォーマンスの問題、未完成の機能、互換性のなくなる変更、特定の分野(モデリング、アニメーション、テクスチャペイント)の放置、コミュニケーション、ユーザーからのフィードバックへの注意不足。一部のユーザーにとって、EEVEE Next は悩みの種の一つでした。

このまとめは感情による分類であり、個々のフィードバックエントリは、ポジティブ、ネガティブ、ニュートラルの要素を組み合わせたものであることに注意が必要です。


 なお、元のデータはオープンデータとして、元記事のページから json 形式でダウンロード可能です。また、よろしければ寄付も受け付けているのでご一考を(キックバックとかはまーったくないのでご安心を)。

 お読みいただきありがとうございます。お疲れさまでした。

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