ton 氏の基調演説

 今週の水曜日に開催された、Blender Conference 2025(BCON25)。最初に講演される「key note」(基調演説)について解説したいと思います。

昨年のBCON以来の成果

 まずはいつものように前回の BCON24 からの成果の解説です。

三回のリリース

 三回のリリースを重ねて来ていますが、氏はすでにインターネットの多くの媒体で語られて尽くされているので、とさらっと流し、代わりにここ数か月取り組んできた Blender 5.0の話になりました。

前回から三回のリリース
前回から三回のリリース

Blender 5.0

 ton 氏「ホバーボードも空飛ぶ車もないが、私たちは Blender 5.0のある未来に生きている」

Physics Nodes(1:41

 ノードタイプの物理演算機能。リアルタイムで動作し、インタラクティブなアニメーションが可能、「リアルタイムモード」もしくは「インタラクションモード」と呼ぶべき次世代の環境になるとのこと。

Physics Nodes
Physics Nodes

Story tool(2:16

 ストーリーボーディング用途で人気があるグリースペンシルと、シーケンサーによる動画編集とまとめたのがこのツールです。
 手描きによるストーリーボードを見つつ、ストリップ編集やシーンの切り替えができ、いつか動画制作を行う時には感動するだろう、と Ton 氏は語ります。

Story Tool
Story Tool

Blender on Tablets(2:56

 すでに25年前(実際にはもう少し後?)に Blender がモバイルで動いていたので、目新しくはないのだけれど、と前置きしつつ、単に Blender アーキテクチャが動作するだけでなく、実用的であることが特別なことだとしています。

タブレット用 blender のモックアップ
タブレット用 blender のモックアップ

コミュニティの活動

 さらにコミュニティの活動にも触れています。

Clay Pencil(3:47

 Daniel Martínez Lara 氏によるコミュニティ発のこのジオメトリノードは、Blender 4.3以降で利用でき、手描きの描線を3Dモデル化してくれます。
 Ton 氏はこのツールをタブレットのいいユースケースの一つと見ているそうです。

Clay Pencil
Clay Pencil

Flowのオスカー受賞(4:19

 Blender 4.4のスプラッシュにもなった Flowのオスカー受賞も記憶に新しいですね。さらに作者の Gints 氏が Blender の宣伝をしてくれたおかげで、Blender にとっても恩恵となったとのこと。

Flowのオスカー受賞時の Gints 氏
Flowのオスカー受賞時の Gints 氏

SIGGRAPH(5:17

 毎年恒例の SIGGRAPH ではタブレット版 Blender を試す人で行列ができたそうです。

SIGGRAPHの風景
SIGGRAPHの風景

 なお、終わり際の展示物の撤収作業中に SIGGRAPH のロゴの「A」と「I」が盗まれたそうで、これを「正しく人で置き換えよう」としたのが下の画像。

S GGR APHロゴ
S GGR APHロゴ

年次報告書(5:54

 先日の記事でもご紹介した年次報告書が紹介されました。

年次報告書
年次報告書

 そして去年の2%の寄付キャンペーンが成功裏に終わったこと、9月1日の時点のグラフで通常より多い寄付額が得られていることが挙げられていました(その後年末時点の予想のグラフも挙げられています)。

 以前からの発言どおり、企業から個人による寄付中心への切り替えが順調に進んでいるようです。

8月31日までの寄付額
8月31日までの寄付額

Blenderの成功の秘密

 これから氏が Blender の成功の秘密を見せてくれるようです。

Blenderの成功の秘密
Blenderの成功の秘密

コミュニティ(7:30

 氏は用途や貢献の有無にかかわらず、コミュニティ自体が最も大きな財産であると語っています。Blender が完璧なソフトウェアではなくても、素晴らしいコミュニティがある事自体が武器だと。

コミュニティ
コミュニティ

貢献者(8:17

 また、Blender.org にバグ報告などをしている貢献者や、類まれなる才能を持つ開発者のことも忘れてはいけません。彼らの存在が Blender を特別な物にしてくれているのです。

貢献者
貢献者

GNU GPLの採用(8:56

 GPL のおかげでコミュニティやフリーの原則を維持し、業界サポート団体になることを避けられたとのこと。なお、GNU GPL 採用に対し、最初の15年ぐらいは業界の反発があったらしいです。

GNU GPL
GNU GPL

パブリックプロジェクト(9:45

 ユーザーも開発者も全員 Blender コミュニティの一員であり、パブリックで、雇用もコミュニティ内から行われます。さらに業界との連携でも、カスタマーとしてではなく「コミュニティの一員」として参加してもらうことができます。

 「Blender がハリウッドにあるのではなく、ハリウッドが Blender に来て、貢献してくれることを望んでいます」

パブリックプロジェクト
パブリックプロジェクト

Blender Foundation(10:36

 2002年、前身の NaN が倒産した時、Blender をオープンソースの元に取り返すべく設立された Blender Foundation。現在は資産を保有する Foundation と、オープンムービーなどを作成する Institute に分離することで、存続と成功に貢献したとしています。

Blender Institute
Blender Institute
オープンムービー
Sintel のメンバー若い……と思ったらもう15年前なんですね……

ビジョンと焦点、方向性(11:40

 ビジョンとは思い描く未来。Ton 氏は25年前から、ゲーム製作と映画・アニメーションとのギャップ、つまりリアルタイムとオフライン作業をつなげたいと考えていたそうです。しかし、現在もまだ到達はしていないと考えており、今でもこのビジョンに従っているとのこと。

Vision、Focus、Direction
ビジョンと焦点、方向性

 焦点は、実現可能で実行可能な物を探し、段階を踏んで行うこと。そして方向性とは実現後に、その方向に人々が動き始めるようにするということだそうです。

そして(少しは)自分(12:34

 ここで Ton 氏の自己紹介がはじまり、氏の四つの側面、Organizer(まとめ役)、Artist(アーティスト)、Developer(開発者)、Entrepreneur(起業家)の側面があると語り、それぞれの来歴を解説していますが、長くなるので省略します。気になる方は元の動画でご確認を。

Ton氏の四つの側面
Ton 氏の四つの側面

 そしてそれぞれを後継の Fiona 氏、Dalai 氏、Sergey 氏、Franscesco 氏にまかせ、今年いっぱいで Blender Foundation Chairman と Blender CEO は引退するとのこと。

 今後は監査委員会に入るらしいですが、それ以上に自由になって何か作りたい気持ちがあるそうです。もしくは庭でわんこと過ごしたいとも。

Franscesco 氏、Sergey 氏、Dalai 氏、Fiona 氏
左から Franscesco 氏、Sergey 氏、Dalai 氏、Fiona 氏

Franscesco Siddi氏の自己紹介と未来(18:56

 Franscesco 氏は高校時代に Linux と Blender に出会い、Youtube で使用方法を学んだとのこと。オープンムービーの Elephants Dream の制作ファイルを使用してイタリア語の吹き替え版を作成し、そのことを Ton 氏に伝えたところから氏とつながりができたそうです。

 そして旧 Blender Wiki 用のスキンで BF からの初めての有償の仕事をして以降、Tears of Steel への参加や Web サイトの構築、Caminandes、Blender Studio の設立、Gooseberry や Cosmos Laundromat などの様々のプロジェクトに参加してきたそうです。

Caminandes プロジェクト
Caminandes プロジェクト

 氏と Ton 氏とは、デザインとテクノロジーで人々を助けるという点において関心が共通するとのこと。さらに氏はストーリーテリングにも強い興味があり、これからも Blender Studio チームと野心的な作品に挑戦していきたいとのこと。

Future
未来について

 今後の数か月で将来の目標について話し合い、継続性と安定性の確保、組織化と成長、多彩なコミュニティの構築などを目指すことを表明しています。

 Blender についても独立性を維持しつつ、より革新的な活動を進め、世界の小さなチームや個人向けに、創造の自由を提供していくそうです。

おわりに

 個人的には Blender 5.0関連の話題が、Ton 氏の引退に全部もっていかれてしまった感じです。引退については数年前の Blender Conference で言及されており、今年のスケジュールのキーノートに名前が併記されていたのをわかってはいたのですが。

 氏はすでに表に出てくることはほぼなくなってはいましたが、個人的にはやはり寂しいですね。

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