元記事:Making Flow – Interview with director Gints Zilbalodis — blender.org

Francesco Siddi 氏による記事の翻訳です。
元記事の公開は少し前ですが、オスカーの長編アニメーション受賞記念に便乗してみました。元記事の最後の氏の画像は Golden Globe の物で誤解を招きそうだったのでオミットしています。


Flow は、ダークグレーの猫と彼の仲間の不思議な旅を綴る長編アニメーション映画で、Blender のミッションの具現でもあります。小さなインデペンデントチームが限られた予算で、世界中の観客を感動させたのです。Annecy Cristals、Golden Globe の Best Animation、César、Academy Award など、60以上の受賞を達成しました。

このインタービューでは、この映画の脚本家かつディレクター(その他も!)を務めた Gints Zilbalodis 氏が、Blender が映画制作においてどれだけ役立つのかを共有してくれます。

Gints: 私はあらゆる種類のアニメーションを作成しました。まずは手描きの2Dデジタルアニメーションから始めましたが、短編をいくつか作成した後、私は手描きが苦手なのだと理解し、モデリングとカメラの移動ができたため、3Dに切り替えたのです。そして当時は私たちの学校で教わっていた Maya を使用していました。

最初の長編「Away」が完成した後、2019年、主に EEVEE のおかげで Blender に切り替えることに決めました。2.8 Beta、さらに Alpha リリースも使い始めました。いくつかの機能の学習にはしばらく時間がかかったものの、実際には本当に素直な物でした。Flow のアニメーターの多くは、Blender への切り替えに一週間もかかりませんでした。

EEVEE は私にとって興味深い機能でした。なぜなら私の最初の長編「Away」は完全に(Maya の)playblast で作成した物で、これは正しいレンダリングではなく、プレビューのような物だったからです。

Blender でのワークフローを発見した時は興奮しましたが、より詳しい方法でさらに細かくコントロールできるようになりました。

私にとってスピードは単にレンダリングだけでなく、ファイルによる作業、ライティング設定、全体的な見た目を作るのに本当に重要な物でした。私は同時に複数の場面の作業するのが好きでした。例えば、カメラの設定時に、ライトも配置する必要があります。なぜなら、ライティングはカメラ位置とシーンの見た目に影響しするからです。これが私が EEVEE を気に入った理由です。

私にはいくつかのゲームエンジン利用の経験が少しありますが、少なくともその時は、映画制作のワークフローの理解が本当に難しかったのです。

そして Blender は理想でした。私の必要とするツールがすべてありました。

このプロジェクトの制作の時系列について教えてください

プロジェクト全体で約5年半かかっています。最初の年は、私は脚本の執筆、Blender の学習、Dream Well Studio として資金の調達先を探していました。

2020年、私たちはいくつかの資金援助先を確保し、コワーキングスタジオスペースへ他の Blender を使用していたアーティストたちや開発者たちと一緒に移動しました。そこで私は Mārtiņš Upītis 氏と Konstantīns Višņevskis 氏と出会いました。

Mārtiņš 氏は私が最初にアプローチした一人です。別に流体シミュレーションのためではなく、彼が参加できるならなんでもよかったのです。しかし、すぐに彼が他の誰よりも水についての深い知識を持っていることが明らかになりました。

私たちは幸運なことに、この初期段階では、私以外にも、パンデミックはあまり影響を及ぼしませんでした。2023年にフルプロダクションに移行するまで、安定していました。

私は Flow の1分半程度のショートパイロット版を作成しました。この時にワークフロー全体を体験しました。技術的には大したことはなかったのですが、そのプロセスのテストに役立ちました。それが私たちの最初の未公開のティーザーにつながりました。後に私たちは別の、宣伝に使用した完全に新しいティーザーを作成しました。

2021年、コンセプトアーティストを雇い、チームの構築を始めました。私がアニマティックの取り組んでいる一方で、私たちはワークフローの効率化に役立つカスタムスクリプトを制作するため、リガ―と開発者を引き入れました。

Latvian studio は比較的小さく、一つの部屋で十分でした。全体では約15から20人ぐらいでしたが、別のチームがプリプロダクションとポストプロダクションを行っていたため、常時3人から5人のみで作業をしていました。

私たちにはセットデザイナーのチームがありました。私はプレビスでシーンの初期デザインを行い、彼らが植物や小道具、環境的なディテールを加え、リファインします。コンセプトアーティストはビルディングのラフをスケッチして、彼らの建築物を作り出し、ストーリーの要素を環境に組み込んでいきます。

他のチームメンバーはツールの開発に専念しました。この映画では水が重要な要素でしたが、水の効果をすべて担当したのはわずか2名でした。Mārtiņš 氏はすでに水のシミュレーションを研究中で、YouTube にその成果を投稿していましたが、まだすべてをまとめ上げるには至っていませんでした。最終的に、彼は水のエフェクト用の Blender アドオンを開発しました。

一方、Konstantīns 氏は水しぶきなどの、より小規模なシミュレーションを担当しました。また、ノンフォトリアルな毛皮や羽根の技術の調査やシェーダーに取り組みました。さらに、他のチームメンバーとともにリギングやキャラクターモデリングも行いました。

2022年には、ベルギーとフランスの共同制作会社である Take Five と Sacrebleu Productions がプロジェクトに参加し、サウンド、キャラクターアニメーション、映画の追加要素に取り組みました。経験豊富なキャラクターおよびパイプラインのテクニカルディレクター、そして体系化されたプロセスで作業するアニメーターをチームに迎え入れることは、映画の複雑な要求に対応するために不可欠でした。これは真の国際共同制作でした。

この映画は2024年のカンヌ映画祭「ある視点」部門で初公開されました。

Blender をどのようにして学んだのですか?

オンラインで多くを学びましたが、経験豊富な人物(Konstantīns 氏)がそばにいてくれたのはありがたかったです。彼は多数のリギングを手がけており、私よりもずっと技術に精通していましたので、アドバイスを求めることができました。時にはアニマティックで特定の動きが必要になることがあり、例えば鹿が渦を巻くように動くといった場合、彼はそれを自動化するスクリプトを書いてくれました。これはジオメトリノードが登場する前のことでした。

私自身はスクリプトを書けないので、スタジオに助けてくれる人がいるのは非常にありがたかったです。しかし、学習は本当に終わりがありません。Blenderやその他のことについても、まだ知らないことがたくさんあると感じています。さらにこのような長期プロジェクトでは、5年前に学んだことを忘れてしまうこともあります。

Flow は Blender で制作し、EEVEE でレンダリング。4Kでレンダリングするのに、1フレームあたり0.5~10秒ほどかかる。レンダーファームは使用せず、最終レンダーは私の PC で作成。コンポジティングは行わず、すべての色はシェーダーを使用して調整

プレビズのプロセスはどのように行いますか?

プレビズやアニマティックを作成する時は、とにかくできるだけ早く作業を終わらせるようにしています。

このアプローチは、アイデアを効率的に探求するのに役立ちます。私は絵を描くのが得意ではないので、プレビズの方が私には合っています。作業が早く済みますし、カメラをよく動かすのが好きだからです。時には建物を大まかにスケッチすることもありますが、基本的には非常にシンプルです。

これらのファイルをコンセプトアーティストに渡します。多くの環境コンセプトアーティストも Blender を使用しているので、私のファイルをインポートすることができます。通常、彼らはすべてを一から作り直しますが、私のファイルは少なくとも正しい比率を提供できます。時には私のモデルにペイントを施すこともありますが、他の場合はすべて直接3Dでデザインします。

彼らがファイルを送り返してきたら、私はアセットをシーンの中心に移動させず、そのままにしておくよう依頼します。そうすれば、すべてを簡単にインポートでき、完璧に整列させることができます。

シーケンスやショットの作成についてはどうですか?

フランスとベルギーのアニメーションチームは、このプロセスに非常に多くの組織化をもたらしました。彼らは、キャラクターアニメーションを実現するために、さらにツールやリグを開発しました。また、シーンを最適化し、キャラクターが相互作用するアセット以外のすべてを削除し、徹底的にクリーンアップする必要がありました。しかし、私はこれらの最適化されたアセットを直接使用せず、アニメーションを私の重いシーンにインポートしました。

ライティングは私一人で担当しました。他のスタッフもさまざまな作業を担当していましたが、ライティングは私一人が担当しました。この体制は作業を容易にしてくれました。

多くの作業を自分自身で担当していたため、すべてをインポートした大きなファイルで作業する方が簡単だったのです。各ファイルでアセットに広範囲にわたる調整を加えました。例えば、ライティングの設定では、各ショットのアセットのマテリアルを調整し、少し明るくしたり暗くしたりして、適切な外観になるようにしました。ライブラリを上書きすることで同じ作業を行うことも可能ですが、私はデスクトップ PC と MacBook の異なるコンピュータで作業を行っていました。

OSを切り替え時に、相対ファイルパスを使用していても、リンク中のアセットに問題が生じる事がありました。リンクを壊さないようにするには、すべてをファイル内に保存しておくのが一番簡単でした。小さなシーンのいくつかは、圧縮後で300MB ほどでしたが、最大のものになると、圧縮後で2GB 近くになるものもありました。

アセットのリンクに、もっといい方法を見つけられたかもしれませんが、制作中はスピードを優先しました。制作のタイムラインでは素早い対応が求められたため、他の方法を試すよりも、最も効率的なワークフローを選択しました。

Flow のアニメーションについては、Blender Conference でのアニメーションスーパーバイザの Léo Silly-Pélissier 氏によるプレゼンテーションを参照

Flowで使用された水面システムの概要

Blender 2.8 のアーリーアダプターとして、新しいリリースが利用可能になるとアップグレードしましたか?

Blender 2.8 Alpha が開発中だった頃から使い始め、定期的に更新していました。チームに参加した頃は、2.9または3.0を使っていたと思います。

各メジャーバージョンでは、当時まだメンバーが少なく、ファイルを共有していなかったので、私たちはアップデートすることにしました。 そうすることで、誰もがリンクなしで各自のファイルを独立して作業できるので、より安全でした。 私たちが最後に使用したバージョンは3.6です。EEVEE は間違いなく改善されていきましたが、それだけではありません。 ジオメトリノードやその他の機能もアップグレードする価値がありました。

もちろん、アップデートのたびに、さまざまなファイルを開いて問題がないか確認するために、多くのテストを行いました。いくつかのものは壊れましたが、全体的にワークフローは安定していました。

初期の頃はチームも小さかったので、アップデートはそれほど大きな問題ではありませんでした。しかし、2023年にすべてのアニメーターが作業を開始した後は、彼らは3.3で作業し、制作全体を通じて固定していました。アニメーションが完成し、私がライティングに移行した後、すべてを3.6にインポートしましたが、問題はありませんでした。

ワークフローで使用したアドオンは何でしたか?

少し使用しました。そのうちのひとつは GeoScatter で、植物やその他の環境要素を配置するための人気の散乱アドオンです。また、キャラクターアニメーションではなく、カメラ用に Animation Layers も使用しました。具体的には、手持ちカメラの揺れを表現するために使用しました。

静止画、その場で歩いている様子、走っている様子を別々のレイヤーで作成しました。これにより、必要に応じてそれらを混ぜ合わせたり調整したりすることができました。この種のワークフロー用に開発されたアドオンもいくつかあると思います。カメラの動きを生成するために、VirtuCamera も試してみました。歩き回ってカメラの動きをライブで記録する実験もしてみましたが、あまり正確ではないことが分かりました。その代わり、私は別々のタイプのモーションのキーフレーム化とレイヤー化の方を好みました。

流体シミュレーションでは、Cell Fluids を使用して大規模な波を生成し、その後 FLIP Fluids で詳細を追加するなど、異なるテクニックを組み合わせることもありました。

その他に使用したツールには、Bagapie Vegetation Generator、Bagapie Rain Generator、Copy Global Transform などがあります。

Blender のどんなところが気に入りましたか?

気に入ったのは、ファイルのオープンが非常に速いことです。些細なことのように思えるかもしれませんが、実際には多くの時間とフラストレーションを節約できます。

EEVEE は素晴らしいです。また、すべてがカスタマイズ可能である点も気に入っています。私は多数のカスタムキーボードショートカットを作成しましたが、これは一人で作業している時には非常に役立ちました。しかし、スタジオで作業を始めた時は、特に他人のコンピュータで何かをデモしなければならない場合に、いくつか問題が発生しました。しかし、私たちは解決策を見つけました。

また、オンラインで利用できるリソースの豊富さも気に入っています。チュートリアルやツールが非常に多く、ほとんどの疑問に対する答えをすぐに探し出すことができます。

インディーの映画制作者にとって、Blender の改善点はありますか?

Blender の使用にはいくつかの課題がありましたが、私たちはそれらを解決しました。

最初は不明瞭な点もありましたが、実際に取り組んでみると理解できるようになります。Blender ではよくあることです。障害にぶつかることがあっても、努力すれば解決策を見つけることができます。

私が期待していること、そしてそれはすでに実現されつつあると思いますが、それは、NPR(ノンフォトリアリスティックレンダリング)のワークフローにより重点が置かれることです。これは素晴らしいことです。インタラクティブなリアルタイムレンダリングのさらなる改善も、大きなメリットとなるでしょう。

ここ半年の Blender での作業はあまり多くありませんでしたが、すでに次のプロジェクトに取り掛かっており、そのプロジェクトに Blender を使用する予定です。

最後に一言どうぞ

私は大きなスタジオで働いたことがないので、彼らがどのように作業しているのか正確にはわかりません。しかしもっと小さなインディー規模のプロジェクトに取り組んでいるのであれば、大きなスタジオのやり方を真似る必要はないと思います。むしろ、自分自身や小規模チームに最適なワークフローを開発すべきでしょう。

私たちの場合、コンセプトアートにあまり頼りませんでした。キャラクターを直接3Dでモデリングし、特定のステップを省略する方法を見つけました。多くのスタッフが複数の役割を担い、すべてに個別の部署を設けるのではなく、作業を合理化する方法を考えました。

私自身も、カメラと照明を別々の段階として扱うよりも、同時に処理する方が簡単でした。少人数のチームだったため、プロセスはより柔軟かつ効率的になりました。

初めての長編作品を制作するにあたり、私は比較的アニメーション化しやすい要素を中心にストーリーを構成しました。大半の視聴者は、制作がどれほど難しいかなどとは考えないため、大勢の群衆や複雑なエフェクトは避けました。 映画制作者が早い段階でツール開発者と協力し、何が難しいか、何が簡単かを理解することは有益だと思います。 これは、制約を感じるのではなく、実際には創造的なアイデアのきっかけとなる可能性があります。

ストーリーテリングには無限の可能性がありますが、時には制約が役立つ場合もあります。例えば、登場人物を4人だけにしたり、舞台をいくつかの場所に限定することで、よりクリエイティブな選択が可能になります。私が好きな映画の中には、このようなアプローチを取っているものがあります。壮大なスケールでなくても、力強い作品は作れるのです。

とはいえ、プロジェクトを始める際にはある程度の甘さは必要だと思います。もし、その難しさを知っていたら、私は始めなかったかもしれません。困難を十分に理解していなかったからこそ、ただ飛び込み、その過程で物事を理解していけたのです。


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